白内障もしくは網膜剥離など、目の手術でもしたのだろう。それまで見えにくかったものがはっきり見えるようになった嬉しさが、「白亜紀」と「風ひかる」に象徴されている。「白亜紀」は地質年代的には1億4500万年前~6600万年前で、スギ、スズカケ、イチジク、モクレンなど被子植物が台頭、気候的にも「温暖」であったことが知られている。このことから、入院した時はまだ寒かったのに、「眼帯をとる」頃にはすっかり春の暖かさになっていたという、時間経過も読みとれる。人間は「視覚」優位の動物。聴覚・嗅覚優位の犬などと違い、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚の五感の内、視覚を失うのは、他の感覚を失うより、行動制限が大きく、その後の生活において痛手、ダメージが大きい。失明に対する恐怖と不安に苛まれた後だったから、視力を取り戻した喜びは大きく、それが自ずから「白亜紀」という誇張表現に繋がったのだ。松下けんには他に/豆名月地下街はしるきつね憑き/朧夜のどの椅子からも子が消える/生きるとは影をもつこと青あらし/ちちもははも樹の中にゐてはなぐもり/らむぷの名は鳳作 九月が蒼く棲む/ダム湖には冬が佇ってた風の色で/朝です ガラスの鍵で秋をあける/など。