「はくれん」は「白木蓮」のこと。その花の白さを灯した「闇」に「卒塔婆小町」が立っている、というのだ。「卒塔婆小町」は、『古今和歌集』の「花の色は移りにけりないたづらに我が身世にふるながめせし間に」の歌で知られる、才色兼備の美女、小野小町の老いさらばえたなれの果てのこと。三島由紀夫の「近代能楽集」の一つにもなっており、「卒塔婆小町」の名は、墓所の卒都婆に座る小町を見とがめた僧に対し老小町が、仏の慈悲はそんな浅いものではない、と逆に説き伏せたことによる。深草少将の求愛にも容易く靡かず、百夜通ったらあなたを受け入れましょうと約束したが、九十九日通った後少将は死んでしまう。「白木蓮」は錆易く、花びらも九枚、花ことばは「高潔」である。そこから連想が「卒塔婆小町」へ飛んだのかもしれない。前田花野には他に/やわらかくなるまでいたい蛍の夜/憂き世の塵つもる音して春の闇/笹鳴きに福耳一つ吊しおく/生きてしやまん大海鼠噛んでいる/長生きの命打こむ初太鼓/迎え火やかすかに櫂の音のして/秋燕海がそこまで来て光る/絶対の爪立てている空蝉は/など。